暗くして泣いた。
部屋を暗くして、少し泣いた。
あまり涙は出なかったけど、マスカラは落ちてた。
それから化粧を直して、夜中の街を散歩した。
最近は煙草が吸えるエリアが少ない。昔吸ってた場所にはスタンド灰皿がなかった。
コンビニ近くにある喫煙エリア。コンビニで昔旦那が吸っていたお気に入りの銘柄と温かいコーヒーを買う。
ある男が私の後ろを通り過ぎる。
煙草を吸う私。
なぜかその男が戻って近づいてくる。
『御姐さん奇麗ですね』
私の事を娼婦だと思ったのか、話しかけてきた。
その男は私と同い年くらいで、ルックスも悪くない。
私は、勃起してしまった。
女性ホルモンが最近効いてるはずなのに。。。
まさか彼は私が勃起する女なんて思ってもいないだろうから、会話をフェードアウトして遠回しに断った。
彼も私の体を舐め回すように見て、その後去った。
私って娼婦に見えるのね。そうよね、こんな時間、人気の無いところでタバコ吸ってる女なんて、中々いないわよね。
ずっと中途半端な人生を送る私。
勉強も中途半端、
体型も中途半端、
学歴も中途半端、
恋愛も中途半端、
結婚も中途半端、
ヴィザも中途半端、
語学も中途半端
仕事も中途半端。
シャンソンやクラシック、昭和の流行歌を聴いたり歌ったり、クラシカルな香水を身に纏い、着物を着て、髪を庇か日本髪に結う。ロマンティックな美しい世界、戦前のノスタルジアな時代への憧れ。。。
ずっと変わらない、唯一、不変的な私のアイデンティティだと思ってた。
しかし、それまでもが中途半端になってきた。
もう私は全てが中途半端になってしまった。
銀行の預金は遂に1000円以下になってしまった。
それなのに髪を数年ぶりに茶色く染めた。
明日は脱毛にも行く。
自分の契約した家は無い。
実家にも帰れない。
ウィーンの家にも帰れない。
姉は言った、
『学生の頃勉強してこなかった付けが回ってきたのね』
私は何も言い返せなかった。
だから、暗くして少し泣いた。